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血糖値を形成する主なエネルギ代謝系

3. 血糖値を形成する主なエネルギ代謝系
血糖値は多くの代謝系によって維持されています。

3・1 解糖および乳酸発酵


ほとんど全ての生物 (動物、植物、かび、バクテリアなど) はぶどう糖 (グルコース) をピルビン酸へ分解します。
生物によるグルコースのピルビン酸への分解は解糖と呼ばれます。
解糖の全過程は次式で示されます。
グルコース + 2NAD + 2ADP + 2Pi → 2ピルビン酸 + 2NADH2 + 2ATP + 2H2O
1 分子のグルコース(C6H12O6) は 10 種類の酵素によって、 2 分子のホスホエノールピルビン酸 (PEP) を経て、2 分子のピルビン酸 (CH3COCOOH) に分解され、その際、2 分子ずつの ADP と無機燐酸 (Pi) から 2 分子の ATP と、2 分子の NAD から 2 分子の NADH2 が生成されます。
生体内の水素イオン濃度 (pH) では、 NAD および NADH2 はそれぞれ NAD+ および NADH + H+ として存在しますが、簡便のために、 NAD および NADH2 を使用します。
解糖に関与する 10 種の酵素を解糖系と云います。
解糖は嫌気的に(酸素の関与なしに)進行します。
     図 解糖および乳酸発酵と、糖新生の代謝経路

動物や植物の細胞は細胞膜(形質膜)、液体の部分、核、細胞小器官で構成されています。
細胞小器官とは、ミトコンドリア、小胞体、リボソームなどの顆粒を指します。
細胞膜で囲まれている部分の中で、核以外の部分を細胞質と云います。
細胞質は液体の部分および細胞小器官からなります。
液体の部分を細胞質ソルと云います。
人を含む動物では、解糖系は細胞質ソルに溶存します。
乳酸デヒドロゲナーゼが存在すると、解糖によって 1 分子のグルコース生じた 2 分子のピルビン酸は 2 分子の NADH2 によって還元され、 2 分子の乳酸と 2 分子の NAD が生成します。
この反応を乳酸発酵と云います。
乳酸発酵の全過程は次式で示されます。
グルコース + 2ADP + 2Pi → 2 乳酸 + 2ATP + 2H2O
乳酸発酵によって生じる ATP は細胞質ソルに存在するので、非常に利用しやすい高エネルギ物質であり、蛋白質、脂肪酸、コレステロールなどの合成反応および筋収縮や神経伝達などのエネルギを必要とする多くの反応に利用されます。
     図 ぶどう糖 (グルコース) の解糖および糖新生と、脂肪酸の合成およびβ酸化

3・2 糖新生


乳酸、ピルビン酸あるいはオキサロ酢酸などを基質(原料物質)にして、ぶどう糖 (グルコ-ス) を合成することを糖新生と云います。
糖新生に関与する酵素系を糖新生系と云います。
動物の全組織で糖新生が行われるのではなく、人では、糖新生の大部分は肝臓、そして一部は腎臓で行われます。
乳酸を基質とする糖新生では、乳酸は、先ず、ピルビン酸へ変えられます。
この反応は乳酸発酵の逆反応であり、乳酸発酵と共通の酵素 (乳酸デヒドロゲナーゼ) によって行われます (触媒されます)。
解糖では、 PEP のピルビン酸への反応はピルビン酸キナーゼによって行われますが、この反応不可逆性であるために、解糖の逆反応ではなく、次の 2 種の酵素によって迂回されます。
先ず、ピルビン酸は、ピルビン酸カルボキシラーゼによって、ピルビン酸はオキサロ酢酸に変換されます。
次に、オキサロ酢酸は、ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ (PEP カルボキシキナーゼ) によって、PEP へ変換されます。
ピルビン酸カルボキシラーゼおよび PEP カルボキシキナーゼはミトコンドリアに存在し、したがって、ピルビン酸の PEP への変換はミトコンドリア中で起こります。
ミトコンドリア膜には、PEP を特異的に輸送する蛋白質が存在し、それによって、ミトコンドリア中で生成された PEP はミトコンドリア膜を容易に通過し、細胞質ソルへ移動します。
ミトコンドリア膜には、オキサロ酢酸輸送系は存在しませんが、アスパラギン酸輸送系およびりんご酸輸送系が存在します。
したがって、オキサロ酢酸がミトコンドリア膜を通過する必要がある場合には、オキサロ酢酸は、いったん、アスパラギン酸あるいはりんご酸へ変換されます。
細胞質ソル中で、PEP は、解糖の逆反応によって、フルクトース 1,6-ビス燐酸へ変換されます。
フルクトース 1,6-ビス燐酸のフルクトース 6-燐酸への変換は、解糖と異なる酵素 (フルクトース-1,6- ビスホスファターゼ) によって行われます。
フルクトース 6-燐酸のグルコース 6-燐酸 (G6P) への変換は解糖の逆反応であり、同一酵素 (グルコース-6- 燐酸イソメラーゼ) によって行われます。
G6P のグルコースへの変換は、解糖と異なる酵素 (グルコース-6-ホスファターゼ) によって行われます。
糖新生によるピルビン酸を基質としたグルコースの合成の全過程は次式で表されます。
2ピルビン酸 + 2NADH2 + 4ATP + 2GTP + 6H2O → グルコース + 2NAD + 4ADP + 2GDT + 6Pi
糖新生の進行には、解糖によって得られるエネルギに比して、遙かに大きいエネルギが必要です。
解糖による 1 分子のグルコースの 2 分子のピルビン酸への分解は 2 分子の ATP を産生しますが、糖新生による 2 分子のピルビン酸から 1 分子のグルコースの合成は 4 分子の ATP および 2 分子の GTP を消費します。
グルコース-6-ホスファターゼは肝臓および腎臓だけに存在します。
したがって、肝臓および腎臓だけが糖新生によって産生したグルコ-スを血流を介して他の組織へ供給できます。
蛋白質は 20 種のアミノ酸で構成されています。
これら 20 種のアミノ酸中で、ロイシンとリシン以外の 18 種のアミノ酸は糖新生に利用できます。
糖新生に利用できるアミノ酸は糖生成アミノ酸と呼ばれます。
糖生成アミノ酸の中には、直接ピルビン酸へ変わるもの (アスパラギン、アスパラギン酸)、直接オキサロ酢酸へ変わるもの (アラニン、グリシン、システイン、セリン、トリプトファン、スレオニン)、くえん酸サイクルを経由してオキサロ酢酸へ変わるもの (アルギニン、グルタミン、グルタミン酸、ヒスチジン、プロリン、イソロイシン、バリン、メチオニン、チロシン、フェニルアラニン) があります。
蛋白質由来のアミノ酸は、食事後には、食物中の蛋白質の消化物に由来しますが、飢餓時には、身体の蛋白質 (主として、筋肉蛋白質) の分解物に由来します。
食物あるいは身体の脂肪の分解物である脂肪酸とグリセロールの中で、グリセロールは糖新生の基質になります。
一方、脂肪酸は、ミトコンドリア中で、β 酸化によって分解され、アセチル-CoA を生成します。
アセチル-CoA はオキサロ酢酸へは変換されないので、糖新生には利用できません。
さらに、アセチル-CoA は、食物などに由来する余剰のオキサロ酢酸が存在しない限り、くえん酸サイクルに入ることもできません。
ロイシンとリシンの代謝および脂肪酸の β 酸化の生成物であるアセチル-CoA は、飢餓状態では、ケトン体へ変換され、利用されます (後述)。
ロイシンとリシンはケトン体生成アミノ酸と呼ばれます。

3・3 グリコーゲンの分解と合成

     図 グルコース 1-燐酸を基質としたグリコーゲンの合成と、グリコーゲンの分解による
        グルコース 1-燐酸の生成

グリコーゲンは主として肝臓と筋肉に存在します。
通常、グリコーゲンの平均含量は、肝臓では全重量の 5-6%、骨格筋では全重量の 0.4-0.6% です。
グリコーゲンの合成と分解は異なる経路によって行われます。
グリコーゲンは、グリコーゲンホスホリラーゼと呼ばれる酵素によって分解された後、ぶどう糖 1-燐酸 (G1P) を経て、ぶどう糖 6-燐酸 (G6P) へ変えられます。
G6P は、解糖系によってぶどう糖から最初に生成される物質です。
G6P は、筋肉では、そのまま解糖系によってピルビン酸へ分解されますが、肝臓では、いったん、ぶどう糖へ変えられます。
グリコーゲンホスホリラーゼの活性は ATP、G6P およびぶどう糖によって阻害され、逆に、AMP によって促進されます。
上記の阻害と促進は非常に敏感であり、グリコーゲンの分解を感度よく調節します。
細胞のエネルギ状態は ATP、ADP、AMP の濃度比によって示されます。
ATP のエネルギが合成反応や運動 (筋収縮など)に使用されると、ATP は ADP と Pi (無機燐酸)へ分解されます。
ADP は、2ADP → ATP + AMP によって、半量は ATP へ再生されます。
したがって、グリコーゲンホスホリラーゼの AMP による促進は合目的です。
グリコーゲンホスホリラーゼはビタミン B6 の誘導体であるピリドキサル燐酸 (PLP) を結合しており、PLP を失うと、失活します。
グリコーゲン合成は、G1P を基質にして、グリコーゲンシンターゼ (グリコーゲン合成酵素) によって行われます。
必要に応じて、グリコーゲンの分解と合成の一方だけが進行するように、グリコーゲンホスホリラーゼとグリコーゲンシンターゼは緊密に制御されています。

3・4 脂肪酸の分解と合成


脂肪酸分解はミトコンドリア中で起こり、逆に、脂肪酸合成は細胞質ソル中で起こります。
脂肪酸がミトコンドリア膜を越えて輸送されるためには、ビタミン様作用物質の一つであるカルニチンが必要です。
ミトコンドリア中での脂肪酸分解では、脂肪酸の炭素は末端から順番に 2 個ずつ切り取られ、切り取られた 2 個づつの炭素はそれぞれアセチル-CoA (アセチルコエンザイム A) を生成します。
この脂肪酸分解は脂肪酸の β 酸化と呼ばれます。
一方、脂肪酸合成は、アセチル CoA を基質として、細胞質ソル中で起こります。
脂肪酸分解はホルモンによって制御されます。
すなわち、脂肪酸のβ 酸化はグルカゴンとアドレナリンによって促進、そしてインスリンによって阻害されます。
一方、脂肪酸合成はインスリンによって促進、そして絶食や飢餓によって阻害されます。

3・5 くえん酸サイクル


ぶどう糖の解糖、脂肪酸のβ酸化、アミノ酸の代謝 (蛋白質の分解) などに共通の分解生成物であるアセチル CoA は、くえん酸サイクル (くえん酸回路) によって、CO2 と H2O に酸化され、NADH2 と FADH2 を生成します。
アセチル CoA がくえん酸サイクルに入るためには、入り口で、オキサロ酢酸と反応する必要があります。
オキサロ酢酸は、二酸化炭素、水および ATP の存在下で、ピルビン酸カルボキシラーゼの作用によって、ピルビン酸から合成されます。
ピルビン酸カルボキシラーゼは肝臓、腎臓、脳および脂肪組織に存在します。
ピルビン酸カルボキシラーゼは、ビタミン様作用物質であるビオチン、マグネシウム (Mg2+)およびマンガン (Mn2+) を結合しています。
絶食や飢餓のとき、合成されたオキサロ酢酸は直ちに消費されるので、アセチル CoA はくえん酸サイクルに入ることができません。

3・6 酸化的燐酸化


ミトコンドリアは外膜と内膜によって囲まれている細胞小器官で細胞呼吸を営みます。
ミトコンドリアの内膜には、数種のサイトクロム(サイトクローム;シトクローム)、ユビキノン、フラビン結合蛋白質などで構成されている電子伝達系が存在します。
解糖やくえん酸サイクルによって生じた NADH2 と FADH2 は、電子伝達系によって O2 と反応し、NAD と FAD へ酸化され、その酸化に共役して、ADP と Pi から ATP が効率よく合成されます。
上記の一連の反応を酸化的燐酸化と云います。

3・7 蛋白質のアミノ酸への分解と、アミノ酸代謝


食物中の蛋白質はアミノ酸へ分解され、小腸で、体内へ吸収されます。
絶食あるいは飢餓の状態では、主として筋肉の蛋白質が分解され、アミノ酸が生成します。
余剰のアミノ酸のアミノ基 (NH2) は尿素サイクルによって尿素 (NH2CONH2) へ変えられ、尿として排泄されます。
蛋白質の分解によって生じるアミノ酸には 20 種類があります。

3・7・1 ケトン体生成アミノ酸、糖生成アミノ酸および糖・ケトン体生成アミノ酸


20 種のアミノ酸中で、2 種のアミノ酸 (ロイシンとリシン) はアセチル CoA とアセト酢酸へ代謝されます。
人を含む動物では、アセチル-CoA やアセト酢酸からぶどう糖を合成できません。
アセト酢酸はケトン体の一種であり、したがって、ロイシンとリシンはケトン体生成アミノ酸に分類されます。
ロイシンとリシン以外の 18 種のアミノ酸はピルビン酸あるいはオキサロ酢酸を経て、ぶどう糖合成の基質 (原料)になるので、糖生成アミノ酸に分類されます。
18 種の糖生成アミノ酸中で、5 種のアミノ酸 (イソロイシン、チロシン、トリプトファン、スレオニン、フェニルアラニン) は、ケトン体へも代謝されるので、これらのアミノ酸は、特に、糖・ケトン体生成アミノ酸に分類されます。

3・7・2 ケトン体の化学構造と合成経路

     図 ケトン体の化学構造と合成経路

ケトン体はアセトン体とも呼ばれ、アセト酢酸、3-ヒドロキシ酪酸およびアセトンの総称です。
食事によってぶどう糖などの糖が十分に供給されているとき(オキサロ酢酸が十分に供給されているとき)、脂肪酸の分解 (β 酸化) によって生じる多量のアセチル CoA はくえん酸サイクルによって迅速に代謝されます。
けれども、飢餓状態あるいは糖尿病では、糖の供給が不十分になるので、くえん酸サイクルの回転率は低下し、アセチル CoA はくえん酸サイクルだけでは処理することができなくなります。
このような状態では、肝臓において、2 分子のアセチル CoA が縮合して、アセトアセチル CoA になり、さらに、1 分子のアセチル CoA が縮合して、3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル CoA が生成されます。
生じた 3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル CoA は肝臓に存在するリアーゼによってアセト酢酸とアセチル CoA に分解されます。
生じたアセチル CoA は再び上記の経路に入り、再利用されるので、結果として、アセト酢酸が蓄積します。
アセト酢酸は特異的なデヒドロゲナーゼ (脱水素酵素) の作用で NADH2 によって還元され、 3-ヒドロキシ酪酸を生成し、一部の組織では、脱炭酸 (-CO2) され、アセトンを生成します。
健常人では、ケトン体の血中濃度は 3 mg/100 mL 以下であり、1 日当たりの排泄量は約 20 mg ですが、重篤な糖尿病の場合には、ケトン体の血中濃度は 90 mg/100 mL、1 日当たりの排泄量は 5000 mg にも達します。
ケトン体の血中濃度が高くなると、患者の呼気は特有のアセトン様の臭気を帯びます。
ケトーシスは、ケトン血症、ケトン尿、アセトン臭の三つの兆候を備えている症状です。
ケトン体は酸であるので、排泄に際して、Na+ が同時に排泄されるので、ケトーシスにはアシドーシスが併発します。
アシドーシスは、体液、特に血液の酸塩基平衡が酸側へ傾いている状態であり、傾く度合いが激しいとき、意識障害、昏睡などが起こります。
さらに、ケトン体の排泄と共に、大量の水が排泄されるので、アシドーシスに加えて、脱水症状が起こり易くなります。


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